ミニマリストは薬・救急用品をどこまで減らせるか?「万が一」への備えと限界
はじめに:健康とミニマリズムのバランス
ミニマリズムを実践する上で、多くのカテゴリで「どこまで減らせるか」という問いに向き合ってきました。衣類、書籍、キッチンツール、デジタルデータなど、目に見えるモノから見えにくいモノまで、手放す基準や必要性の再評価を繰り返しています。その中で、常に判断が難しく、手をつけるのに躊躇があったカテゴリの一つに、「薬・救急用品」があります。
風邪薬、頭痛薬、胃腸薬、絆創膏、消毒液。これらは日常的に使うものではないかもしれませんが、「万が一」の際に必要になるものです。健康に関わることですから、むやみに減らすわけにもいきません。しかし、気がつけば使用期限が切れた薬や、何のために持っているか分からない医療品が増えている、という状況も珍しくありませんでした。
この記事では、ミニマリストとして薬・救急用品をどこまで減らせるかに挑戦した私の経験と、その過程で直面した葛藤、「万が一」への備えに対する考え方の変化についてお話しします。理想論だけではない、リアルな実践の記録としてお読みいただければ幸いです。
薬・救急用品の現状把握と最初の選別
まず最初に行ったのは、家にある全ての薬・救急用品を一箇所に集めることでした。リビングの引き出し、キッチン、洗面所、旅行ポーチの中など、分散していたものを全て並べてみると、想像以上の量に驚かされました。同じような効能の薬が複数あったり、何年も前に購入したまま放置されていたりするものも多く見つかりました。
次に、それらを一つずつ手に取り、以下の基準で分類していきました。
- 現在、日常的に使用しているもの(常備薬など)
- 使用頻度は低いが、常備しておきたいもの(風邪薬、頭痛薬、絆創膏など)
- 使用期限が切れているもの
- 何のためにあるか分からない、または今後使用する見込みがないもの
- 処方薬(現在服用しているもの、あるいは予備)
この段階で、使用期限切れのものや、明らかに不要と思われるものはすぐに手放す判断ができました。しかし、多くの残ったのは「使用頻度は低いが、常備しておきたいもの」と、「万が一」への備えとしてどう考えるか、という点でした。
「万が一」への備え:どこまでが「必要」なのか?
ミニマリズムにおける「必要」の定義は、人によって異なります。多くの場合、「自分の生活をより良くするために、今、本当に必要なもの」と捉えられます。しかし、薬・救急用品に関しては、今必要ではなくても、将来の不調や怪我に備えるという側面が強くあります。
例えば、突然の高熱が出た時に解熱鎮痛剤がない、深夜に軽い切り傷をして絆創膏がない、といった状況は避けたいものです。そのため、ある程度の備えは必要だと感じていました。問題は、「ある程度の備え」が具体的に何を指すのか、という点でした。
私の考え方の基準としたのは以下の点です。
- 過去一年間で実際に使用したか、または使用する可能性が高いか
- その症状が出た際に、自宅にその薬がない場合、すぐに(例:ドラッグストアが開いている時間に)入手可能か
- 症状が悪化する前に初期対応として有効か
- 一つの薬で複数の症状に対応できるか(総合感冒薬など)
- 家族構成や年齢(高齢者や乳幼児がいるかなど)に応じた必要なものか
特に、「すぐにドラッグストアで入手可能か」という点は重要な判断基準となりました。日常的な軽症であれば、昼間であれば購入できます。しかし、深夜や休日、あるいはすぐに外出できない状況を考えると、最低限の初期対応ができる範囲で備えておくのが現実的だと考えました。
極限への挑戦:具体的な手放しと葛藤
この基準をもとに、さらに薬・救急用品を厳選していきました。
- 類似薬の削減: 同じような効能を持つ複数の胃腸薬や鎮痛剤は、最も信頼しているもの、または一つで複数の症状に対応できるものに絞りました。
- 過剰な種類の削減: 「念のため」と思って持っていた、使用頻度が極めて低い特定の症状(例:水虫薬、乗り物酔い薬など)に特化した薬は、使用期限が近ければ手放すことを検討しました。本当に必要になったら、その都度購入するという考え方にシフトしました。
- 応急処置用品の見直し: 大量の絆創膏やガーゼ、包帯なども、日常的な軽い怪我に対応できる量に絞りました。大規模な災害に備える用品とは区別し、あくまで「ミニマルな日常での備え」に焦点を当てました。
- 使用期限の管理徹底: 残すと決めたものは、使用期限を全て確認し、最も古いものを手前に置く、リスト化するなど、定期的な見直しをルーティンに組み込みました。
この過程で最も葛藤があったのは、「〇〇の時に必要になるかも」という漠然とした不安との戦いでした。例えば、普段は胃痛がないのに、「もし急になったら困る」と考えて胃薬を残しておく、といった判断です。しかし、それは未来への過剰な不安に基づく行動であり、今現在の生活空間を圧迫しているという事実に気づきました。本当に頻繁に起こる症状であれば常備する理由がありますが、そうでない場合は手放す勇気も必要です。
実践後の変化と限界
薬・救急用品を厳選し、必要最小限に絞った結果、収納スペースは劇的に減り、どこに何があるかが一目でわかるようになりました。これにより、いざという時に慌てて探し回る必要がなくなり、管理の手間も大幅に削減されました。
しかし、この挑戦には限界も感じました。それは、完全にゼロを目指すことは不可能であり、また推奨されることではないという点です。体調の不調や予期せぬ怪我は誰にでも起こり得ます。その際に適切な初期対応ができるかどうかは、その後の回復にも影響します。ミニマリズムは生活を豊かにするための手段であり、健康を損なう目的ではありません。
私にとっての「限界」は、必要最低限の風邪薬、鎮痛剤、胃腸薬、消毒液、絆創膏、そして個人に必要な常備薬(アレルギー薬など)を手元に置くことでした。これらをコンパクトな救急箱にまとめ、すぐにアクセスできる場所に保管しています。
まとめ:心の安心とモノの量のバランス
ミニマリストとして薬・救急用品を減らす挑戦は、単にモノを減らす行為以上の意味がありました。それは、「万が一」という不確実性に対して、モノを持つことで安心を得ようとする心理と向き合うプロセスでもありました。
必要以上にモノを持つことで得られる安心は、ときに幻想であることに気づきました。本当に必要な時に適切なものが手元にあること、そしてそれを管理できていること。さらに、モノがなくても対処できる知識や情報(例:近くの医療機関やドラッグストアの情報を把握しておくこと)もまた、重要な「備え」であると学びました。
薬・救急用品のミニマリズムは、物理的なモノの削減と同時に、心の安心とモノの量のバランスを見つける挑戦です。もし、あなたが薬箱の整理に苦手意識を感じているなら、まずは使用期限の確認から始めてみてはいかがでしょうか。そして、「何に備えたいのか」「そのために本当に必要なモノは何か」を、ご自身の健康や生活習慣と照らし合わせて考えてみてください。きっと、あなたにとっての必要最小限が見えてくるはずです。