ミニマリストは工具・DIY用品をどこまで減らせるか?「いざという時」への備えと限界
はじめに:工具・DIY用品と「いざという時」への不安
私たちは、いつ必要になるか分からないモノを、つい手元に置いてしまいがちです。中でも工具やDIY用品は、「いざという時」に困らないようにと、ドライバー一本から電動ドリルまで、様々なアイテムが増えていく傾向にあります。ちょっとした修理や組み立て、日曜大工のため、あるいは単に「家に一つはあるべき」といった思いから、それらは物置や引き出しの奥にひっそりと積み重ねられていきます。
ミニマリズムを志す中で、こうした「いつか使うかも」という理由で所有するモノとどう向き合うかは、多くの人が直面する課題の一つです。工具やDIY用品も例外ではありません。果たして、これらのアイテムをどこまで減らすことができるのか。そして、最小限に絞り込んだ生活で、「いざという時」に本当に困らないのか。今回は、私が工具・DIY用品のミニマリズムに挑戦し、そこから見えてきた現実と限界についてお話しさせていただきます。
私の工具・DIY用品ミニマリズム挑戦
以前の私の家にも、一般的な家庭にあるであろう工具類は一通り揃っていました。ドライバーセット、ペンチ、ニッパー、メジャー、トンカチ、ノコギリ、さらには使わなくなったDIYキットの残骸や、サイズの合わないネジや釘の詰め合わせなどです。それらは工具箱や引き出しに無造然と放り込まれており、いざ使おうと思ってもどこにあるか分からない、錆びついている、といった状態でした。
ミニマリズムの実践を進める中で、こうした工具類も整理の対象となりました。手放すにあたり設けた基準は、主に以下の点です。
- 過去1年間に一度も使用しなかったもの: これは多くの場合、今後も使用する可能性が低いと考えました。
- 汎用性が低く、特定の用途でしか使わないもの: たとえば、以前作った家具の組み立てにだけ使った特殊な六角レンチなどです。
- 他のモノで代替できるもの: たとえば、精密ドライバーのセットは、使う機会が限られる上、スマホ修理など専門的な作業はプロに任せる方が確実と考えました。
- 複数あり、一つあれば十分なもの: サイズ違いのドライバーが何本もある場合などです。
この基準で一つ一つ見直していくと、驚くほど多くの工具が「いつか使うかも」という理由だけで保管されていることが分かりました。使っていない古い接着剤は固まり、錆びた釘は使い物になりません。それらを思い切って手放していきました。特に手放すのに勇気が必要だったのは、学生時代から持っていた年季の入った工具箱です。中身をほとんど手放した今、箱自体も手放すことに抵抗を感じましたが、場所を取るため、コンパクトな収納に切り替えることにしました。
ミニマリストとして残すことを選んだ最小限の工具
試行錯誤の末、私がミニマリストとして手元に残すことにしたのは、ごく限られたアイテムです。
- プラス・マイナスドライバー(中サイズ各1本): 日常で最も使用頻度が高いネジに対応するため。
- 簡易的なメジャー: 家具の配置変更や簡単な計測に。
- ペンチ(小型): 細かい作業や針金などを扱う際に便利。
- カッターナイフ: 段ボールの開封や簡単な切断作業に。
- 予備の単三・単四電池: リモコンなど、多くの家庭で日常的に使用するため。
これらは、私が過去の経験から「これだけは家庭内で必要になる場面がある」と感じた最低限のツールです。電動工具や特殊な工具は全て手放しました。これらのアイテムは、小さなケースに収まるサイズになり、収納スペースを大幅に削減することができました。
実践の中で直面した困難と「あの時捨てなければ…」
もちろん、工具を最小限にしたことで直面した困難もありました。
最も顕著なのは、特定のDIY作業が必要になった時です。例えば、少し厚みのある木材を切る必要が出た際、以前持っていたノコギリを手放していたため、どうするか考える必要がありました。幸い、知人に電動ノコギリを借りることができましたが、すぐに解決できない状況も想定されます。
また、家具の組み立てや分解など、特定のサイズの六角レンチやスパナが必要になる場面もゼロではありません。これも、必要なサイズだけを100円ショップなどで一時的に購入したり、製品に付属していたりするもので対応できないか検討することになります。
正直なところ、手放したことを一瞬「あの時捨てなければ、今すぐできたのに」と思ったことも皆無ではありません。特に急いで作業をしたい時などは、手元にないことにもどかしさを感じることもあります。しかし、その頻度を冷静に考えると、年に一度あるかないかの出来事です。その「いざという時」のために、使わないモノを常に置いておくことのコスト(場所、管理、精神的な負担)と比較衡量すると、現在の状態が私には合っていると感じています。
ミニマリズムが工具との関係にもたらした変化
工具・DIY用品を最小限にしたことで、いくつかの変化を感じています。
まず、モノを探す時間が劇的に減りました。必要な工具は小さなケースに入っているため、迷うことがありません。また、錆びて使えないといった無駄なアイテムもなくなったため、持っているモノは全て「使える」状態です。
そして、「いざという時」への備え方に対する考え方が変わりました。以前は「自分で全てを解決できる道具を持つこと」が備えだと考えていましたが、今は「必要な時に必要な方法で解決できること」が備えだと考えるようになりました。自分で持っていなくても、知人に借りる、ホームセンターでレンタルする、プロに頼む、といった様々な選択肢があることを認識し、それらを柔軟に使い分けるようになりました。
まとめ:工具・DIY用品のミニマリズムから学んだこと
工具やDIY用品のミニマリズムは、「いつか使うかも」という未来への漠然とした不安と向き合うプロセスでした。全てを自分で完結させようとせず、外部のサービスや他人の助けを借りることも視野に入れることで、所有するモノを大幅に減らすことが可能になります。
重要なのは、自分にとっての「必要最低限」を見つけることです。それは家庭環境やライフスタイルによって異なります。私の場合は、日常の簡単な作業に必要なツールに絞り込みましたが、人によってはもう少し多くのアイテムが必要かもしれません。
この挑戦を通じて学んだのは、「備え」の形はモノを所有するだけではないということです。情報や人との繋がり、そして必要な時に適切な行動を取れる知識も、立派な「備え」となり得ます。無理に全てを手放す必要はありませんが、一度手元の工具・DIY用品を見直し、「本当に必要か」「代替手段はないか」と問い直してみることは、自身の所有欲や不安の根源と向き合う良い機会になるでしょう。
この体験談が、あなたのモノとの向き合い方を考える上で、少しでもお役に立てれば幸いです。